自動車は、「走る」「曲がる」「止まる」の基本性能を進化させ、現在では、高性能な自動車がたくさんあります。ABSは、この3つの性能のなかの安全に「止まる」ために開発されたブレーキシステムです。
それでは、ABSとはいったいどのような役割をはたすのでしょうか。今回はABSの作動する仕組み、システムが開発された歴史、いつから義務化になったのかを分かりやすく説明していきます。
ABSっていったい何なの?
ABSとは、アンチロック・ブレーキ・システム(Antilock Breake System)の略称です。急ブレーキや、濡れていたり凍った路面でブレーキをかけてしまうと、タイヤがロックして操縦不能になり、スピンを起こすなどして重大な事故になりかねません。
それを回避するために、わずかにタイヤの回転を保持しながらスリップを防止し、操舵性を確保してくれるのが、ABSという装置となります。ではABSにはいったいどのような役割があるのでしょうか。
ABSの役割
ABSにはタイヤのロックを抑えるという役割があります。「ポンピングブレーキ」というブレーキ操作はご存じでしょうか。普段の運転でブレーキを踏む場合、タイヤは回転しながらスピードを落としていきます。そのため路面との摩擦を保持することができ、カーブを曲がったり真っ直ぐ停止できるのです。しかしずっとブレーキを踏み続けていると、車を停める力よりもブレーキがタイヤを止める力の方が大きくなり、タイヤの回転が止まります。そうなってしまうと、ハンドル操作が利かず事故につながってしまうのです。
「ポンピングブレーキ」は、明らかにスリップしそうな路面で使用します。タイヤがロックしてスリップしないように、ブレーキペダルを踏んだり放したりして、タイヤの回転が止まらない程度にブレーキ操作を行うのです。しかし、思いがけない危険な場面や急な路面変化で、そのブレーキ操作をすることはほぼできません。そんな危険な状況を回避できるよう、自動で「ポンピングブレーキ」の動作をしてくれる、それがABSシステムなのです。
ABSはブレーキオイルの油圧を制御する仕組みとなっている
ABSは人によるブレーキ操作に代わり、ブレーキオイルの細かな油圧の制御を行ってくれています。
そもそもブレーキの仕組みとは、ブレーキペダルを踏むとマスターバックを介してマスターシリンダーを押し、油圧が発生します。ブレーキパイプ、ホースによって油圧が伝わり、各車輪のブレーキピストンに油圧がかかってブレーキが効くようになっています。これはABSを装備していないブレーキの仕組みになります。ABS装着車は、その基本構造にプラスしてそれを制御するコンピューターや、油圧装置などで構成されているのです。
油圧装置は、マスターシリンダーと各車輪のブレーキピストンとの間で行います。通常の制動時(ABS非作動時)は、ABSなしの車両同様の油圧制御を行いますが、ABSの作動時は、コンピューターがブレーキペダルと各ピストンの間に割り込みます。コンピューターによって細かな油圧制御をし、自動でブレーキをかけたり解除したりしてくれるので、タイヤがロックするのを防いでいるのです。このように現在の車はポンピングブレーキを行わなくても、ABSという自動でタイヤロックを防いでくれるとても便利な機能が備わっています。
ABSの歴史とは?
ABSの歴史は、鉄道から始まります。鉄道の車輪は、自動車のようにゴムではなく、「鉄」でできていて、ブレーキでロックしてしまうとレールと擦れ、異音や振動などのトラブルが発生していました。それを防ぐために「車輪をロックさせない」目的で、1936年にドイツのロバートボッシュ社が開発した装置がABSの始まりになります。その後、1947年にイギリスのダンロップ社が飛行機用の装置を開発します。こちらは、自動車と同じゴム製で、タイヤがバーストしないようにという理由からでした。
どちらもブレーキ性能というよりは、「車輪の損傷を防ぐ」目的で装備されてもので、動作も「車輪がロックしたら回転させる」を繰り返す、粗い動きをするものだったのです。自動車に装備され始めたのは、1969年、フォードのコンチネンタルマーク3であり、日本で最初の車は日産のプレジデントとなっています。
当時のABSは、後輪だけ制御するもので、後ろのタイヤだけを制御していました。しかし、前輪に求められた「止まる」のほかの「ハンドル操作」を制御できるほどの機能はなく、4輪ABSはなかなか実現できなかったという背景があります。
しかし1979年に4輪のABSが誕生しました。4輪ABSを初めて装備したのは、世界では1979年でメルセデスベンツのSクラスで、日本では1982年にホンダのプレリュードが装備しています。このころは、まだABSが普及せず、名称もALBや4WASなどさまざまでした。その後、ABSが全体的に普及することにより、どのメーカーも名称をABSと呼ぶようになっていったという背景があるのです。
ABS義務化はバスなどの大型車から始まった
ABSの装着義務化が始まったのはトラックなどの大型車からです。国土交通省がトラック、トレーラー、バスに ABSの装着の義務化を発表したのは、2013年8月です。新型車は2014年11月以降、継続生産車は、2017年2月から実施されています。一部の車両には、EVSC(車両安定性制御装置)という横滑りを防止する装置の装着も義務化されています。義務化の背景には、安全性の向上と国際的な基準調和の観点から導入されました。大型車の場合、事故となると重大化する割合が大きいため、義務化は当然のことかもしれません。
乗用車の義務化もその後すぐに実施され、より安全にかつ簡単に運転できるようになったという歴史があります。
バイクでは2018年から義務化が開始されている
2輪のバイクも、2014年11月に義務化が発表され、実施日は新型車が2018年10月、継続生産車は2021年10月から実施されます。こちらも、上記同様の観点から義務化の導入が決まりました。バイクのブレーキは前輪、後輪で独立したレバーやペダルで操作するので、運転技術のいる乗り物です。操作を誤ると、生命に係わる事故になりかねません。
ABSの義務化によって、その危険度が4分の1に減少すると言われています。自動車に比べ、義務化が少し遅れた背景には、自動車よりも技術進歩が遅いことが考えられます。目的が「仕事、日常生活」で利便性を求める自動車に対し、「趣味」で楽しさを求める割合が多いバイクには、それほど最新技術は必要ではなかったのかもしれません。しかし先述したように、事故となると重大化する確率は高くなります。
そのためABSを導入し、さらに安全に運転できるよう義務化を決定したのではないでしょうか。
まとめ
自動車は、便利な乗り物ですが操作を誤ると重大な事故を起こす危険な乗り物でもあります。
そしてABSは、その「万が一危険な場面」を助けてくれる「ブレーキシステム」なのです。近年では自動化が進み、ブレーキも2021年11月以降の新車から「自動ブレーキ」の搭載義務が決まりました。
すでに現行車でも、自動ブレーキを搭載している車両が多く、おかげで事故の件数も少なくなっていきます。ですが、ABSを始めとするアシスト機能は、万能ではありません。その能力を超えた運転をすると、事故につながります。
ABSはとても素晴らしい装置ですが、運転者は人間です。事故はどうしてもドライバーの操作によって発生します。そのためABSがきちんと作動できるよう日頃のメンテナンスをしっかりと行い、ABS操作に頼り切らない運転を心掛ける必要があるといえます。また、古い車を購入予定の方はその車に、ABSが搭載されているかどうかをしっかりと調べておく方がよいでしょう。